PROJECT STORY

PROJECT
STORY

Project 01スマート農業プロジェクト

人と生き物にやさしい
サステナブルな棚田農法

ICTソリューションの力で、
離島の米づくりに革命を

新潟県の離島・佐渡市。特別天然記念物のトキの生息地として知られるこの地では、古くから棚田での米づくりが行われてきました。そんな佐渡市は、トキとの共生を目的に減農薬・無農薬栽培を推進しており、2011年には日本初となる「世界農業遺産(GIAHS)」にも認定されました。しかしその一方で、棚田地域は平野部に比べて管理に労力を要することに加え、生産者の高齢化、担い手不足が顕著になってきているという大きな問題に悩まされていたのです。この社会課題に立ち向かったのが、ソリューション営業部 新潟支店のメンバー。ICTソリューションを活用した「スマート農業」の導入を目指すとともに、地域の人々との「共創」に取り組んだプロジェクトの模様をお伝えします。

PROJECT MEMBERS

  • 臼井 満
    セールス(法人)

    臼井 満

    1996年入社
    ソリューション営業部
    新潟支店 担当課長

  • 湯本 祐起
    セールス(法人)

    湯本 祐起

    2005年入社
    ソリューション営業部
    新潟支店 主査

  • 波多野 竣介
    セールス(法人)

    波多野 竣介

    2022年入社
    ソリューション営業部
    新潟支店

ROAD MAP

  • 1

    事業参画

    地域の研究機関や自治体、農家と連携して「世界農業遺産と朱鷺の島スマート農業コンソーシアム」を立ち上げ、「スマート農業産地形成実証(事業主体:農研機構)」にエントリー、採択されてプロジェクトがスタート。

  • 2

    設計・構築

    地元農家へのヒアリング結果とプロジェクトメンバーの知見を集結し、3つのICTソリューションを活用した農業の省力化を目指す実証を設計。

  • 3

    実証実験

    現場となる棚田にICTソリューションを導入し、地元農家の協力のもとに実証実験を行う。各ソリューション担当エンジニアとも連携し、現場に合わせた改修を重ねる。

  • 4

    成果検証

    ソリューションの導入により、目標数値を超える省力化を達成。
    地元農家に検証を続けてもらいながら、シェアリングサービス実現の可能性を模索。

PHASE 01事業参画

地域の専門家たちとのつながりを活かし、
ともに地元の課題解決に乗り出した。

自治体のさまざまな課題に対して、適切なDXソリューションで解決を図るのが、臼井担当課長が率いるチームのミッションだ。「地域をより良くするために、どんな課題をどんなソリューションを通じて解決するか。どのように地域共創に取り組むか。日頃からそこに向き合ってきました」と語る臼井。プロジェクトの立ち上げをリードしたのは、チームの営業活動を牽引する主査の湯本だ。「地域活性化を目指すなかで、地元のさまざまな方とつながりができました。新潟大学の教授とも日頃から課題を話し合う仲。教授は棚田の保全を研究されていて、一緒に問題を解決できないかと考えたことがプロジェクト立ち上げのきっかけです」。
そこで湯本は、農研機構の公募に着目した。それが「スマート農業産地形成実証」事業だ。実は以前にも湯本は、佐渡市の特産品である「おけさ柿」の栽培を本土から支援する「スマートグラスを活用した農業遠隔指導の実証実験」で同事業に採択された経験があった。その知見を活かし、今回も同じく農研機構のもとでプロジェクトを始動させることに。まずは自治体から地元の米農家を紹介してもらうなどし、プロジェクトメンバーを集めた。農研機構や自治体のほか、新潟大学、コンサルタント、ドコモグループなど、およそ40名のプロジェクトメンバーとともに「世界農業遺産と朱鷺の島スマート農業コンソーシアム」を設立。こうして2022年4月、佐渡市の棚田農業における省力化と収益向上を目的とした2年間の実証プロジェクトが始まった。

phase

PHASE 02設計・構築

3つのICTソリューションにより、
棚田が抱える課題解決を目指す。

そもそも棚田は、平野部の水田に比べて管理に労力がかかるため、労働力不足はより深刻だった。しかし、棚田を守り減農薬、無農薬・無化学肥料栽培を広げていくことは、環境保全や生物の多様性を守ることに貢献し、さらにはトキと共生する未来のためにも重要なのだ。「そこでまず私たちが行ったのは、農家の方々が何に苦労しているかを知ることです。ヒアリングはもちろん、実際に棚田へ行って自分たちの身をもって体感しました」。そう語るのは、チーム一番の若手でプロジェクトの実務面を担った波多野。彼は何度もフェリーに乗って佐渡へ通い、多い時には週に3日を棚田で過ごした。
新潟支店に農業経験者はいなかったため、ゼロから体で学んだ。実際に農作業用の服を着て農家と一緒に棚田へ入る日々。当時を振り返って波多野が語る。「そのうち、地元の方々から『ドコモビジネスソリューションズさんはよく棚田に来てくれるね』と声をかけてもらえるようになりました。私たちは農業に関しては素人ですが、だからこそ気負わず専門家の方ともコミュニケーションが取れたんです。こうして徐々にプロジェクトメンバーとの信頼関係を築いていきました」。

設計・構築 設計・構築

その結果、浮き彫りになった課題は主に3つある。
1つ目は、棚田を仕切る畦畔の除草作業。雑草が伸びると害虫が発生しやすくなるために頻繁に除草しなければならず、棚田栽培において最も労力を要する作業と言われる。しかも、複雑な地形ゆえに最適な草刈り機の選定や作業方法を選択するには深い知見が求められる。この課題に対して、ドローンで棚田の空撮・測量を行い、3Dモデルを作成・分析することで最適な草刈機を選定し、作業の省力化と脱属人化を目指した。
2つ目が、水田の水量管理。農家は昼夜を問わず水位の確認と給水作業に追われており、特に傾斜の多い棚田での作業は高齢の農家にとって大きな負担となっていた。これに対して、水位情報が分かるIoTセンサーと自動給水システムによって遠隔作業の実現を目指した。
3つ目は、水田内の除草作業だ。減農薬・無農薬栽培を行うには、こまめに除草作業を行い雑草から水田を守る必要がある。そこで、画像認証AIを搭載した水田除草ロボットの導入を目指すことになった。
これら3つのICTソリューションの導入がうまくいけば、担い手不足という課題にアプローチできるはず。その目的のもとに実証実験をスタートさせた。

phase

PHASE 03実証実験

立ちはだかるいくつもの壁。
乗り越える鍵は「コミュニケーション」。

実際に棚田にソリューションを導入してみると、クリアすべき課題がいくつも見えてきた。
まず1つ目は、農家の不安の払拭だ。波多野が振り返る。「農家の方々はデジタル機器に馴染みが薄いので、『本当にこれで水の量が分かるの?』というように初めはなかなか信用できずに、結局ご自身で棚田を見に行く方もいたんです。そんな農家の不安や本音に寄り添い、自分たちが一緒に棚田で機器を使って見せて安心してもらうよう努めるうちに、ソリューションを信用してもらえるようになりました」。
また、立場の異なるメンバーが40名も集まる大所帯のプロジェクトならではの問題にも直面した。湯本が語る。「それぞれの立場やメリットが異なることで多くのアイデアや実証内容が集まったのは良い点でしたが、限りある予算を有効活用するには、内容の取捨選択が必要。コンソーシアム全体の目的達成を優先し、お互いの意見を整理していくことには苦労しましたね」。

実証実験 実証実験

そして特に難題だったのは、水田除草ロボットの導入だ。というのも、佐渡の棚田は土壌が軟らかく、ロボットがぬかるみにはまって動かなくなる事態が頻発したからだ。「商材の専門部隊と連携して、ロボットの改良を重ねました。キャタピラの形を変えたり、重心を前に持ってきたり。その結果、まだ改善の余地が残るものの、かなり実用化に近づいてきました」と臼井。改良にあたっては専門家から寄せられるさまざまなアイデアも参考にした。こうして多くの関係者とコミュニケーションを取りながら課題を乗り越え、実証実験を進めていった。

phase

PHASE 04成果検証

期待を超える「省力化」を実現!
引き続きシェアリングシステムの実現を模索。

実証の結果、「多収化」に関しては、天候の関係もあり目標には及ばなかったものの、「省力化」に関しては期待以上の成果を上げることができた。給水作業では作業時間の最大58%を削減、水の見回り作業にいたっては最大88%の削減に成功したのだ。ドローン空撮による測量と分析の結果として「畦畔草刈りマニュアル」を活用できるようになり、経験値の少ない農家でも効率よく草刈りを行えるようになった。水田除草ロボットは試行錯誤を繰り返しながらも着実に前進しており、これらのソリューションの一部は引き続き棚田に残して農家に活用してもらい、さらなる利活用の道を探る予定だ。
また、かねてより「生産の課題解決だけでなく、販売まで見据えたビジネスモデルを構築・創出したい」という強い思いを持ってプロジェクトに取り組んできた波多野の働きかけにより、米の販売支援に結びついた。「広報部に掛け合って、プロジェクトの紹介とドコモグループ社員向けにお米の購入希望者を募ったんです。その結果、500kg分もの購入希望者を農家に紹介することができて、非常に喜んでいただけました。こうして地域共創に取り組めたことが最高に嬉しいです」と、笑顔を見せる波多野。このほかにも「波多野君たちのおかげで農作業が楽になったよ」といった農家からの声が、かけがえのない宝だという。
2024年3月で実証は終了したものの、今後はこうしたソリューションを地域でシェアするシステムの構築を模索したいと語る湯本。「1つの法人や農家が高価なデジタル機器を導入するにはハードルが高いので、これを地域の農家みんなでシェアできる仕組みを作りたいのです」。また、佐渡市の実証をモデルに、ほかの地域でもスマート農業ソリューションの導入を進めているという。
「佐渡市の棚田における取り組みを世の中に知ってもらうことも私たちの使命。全国にネットワークを持つドコモグループの一員だからこそできることだと思います」と語る臼井。今回のプロジェクトで地域とのつながりが強固になり、さまざまな相談もいただけるようになったという。「地域の課題解決に貢献すると同時に、ドコモビジネスソリューションズのブランディングにも寄与できたのではないかと思います。波多野や湯本ら、最後まで全力を尽くしてくれたメンバーにあらためて感謝したいです」。

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SPECIAL COLUMN

若手の波多野さんに
聞いてみました!

波多野さん

入社2年目でプロジェクトの実行を任されて、どう感じましたか?

入社した頃から「地域共創」に関わりたいとアピールしていたんです。だからこのプロジェクトに参加できることになって嬉しかった反面、まだ入社2年目の自分に実行役が務まるかと不安もありました。毎日何かしらの課題にぶつかって本当に大変でしたが、周囲のサポートを受けて体当たりで臨みました。

これからどんな仕事に挑戦してみたいですか?

農業業界の新しい「あたりまえ」創出に挑戦していきたいと考えています。
現在私は、持続可能な農業を創出するため、ICTによる課題解決、データ活用による農業、付加価値をつけた作物の販売支援などをまとめた、新たなビジネスモデルの構築を検討・推進しています。
私自身も虜になった農業を、発展させるためにも効率的かつ生産者農家に寄り添った世界を生み出したくて。
麦わら帽子に長靴のスタイルで棚田に通った日々も良い思い出です(笑)。

最後に、ドコモビジネスソリューションズで働く魅力を教えてください!

大きな企業グループの一員ですが、早くから想像以上に重要な仕事を任せてもらえます。もちろん未熟な点はありますが、そこは経験豊富で面倒見の良い先輩たちがフォローしてくれます。今回のプロジェクトでも、臼井さんのICTの知見や湯本さんの対人スキルに何度も助けられました。縁のない新潟に配属となって初めは不安でしたが、ここに来られて本当に良かった。地域との距離感の近さなど、支店ならではの魅力も感じます。