「メタバース入学式」をトリガーに
学生から“選ばれる大学”へ導入の目的:差別化戦略、先進性の訴求など
課題 |
|
---|---|
対策 |
|
効果 |
|
展望 |
|
株式会社ドコモビジネスソリューションズは全国のお客さまへ営業活動を行うNTTコミュニケーションズ株式会社のグループ会社です。
課題
最新技術に触れられる大学として
学生の関心を引く先進イメージを訴求
日本の少子化の影響は幅広い経済活動に及び、私立大学の運営もそのひとつだ。文部科学省は、18歳人口が推計通りに減る場合、現在約64万人/年の大学入学者が2040年には約51万人/年まで減ると予測している※1。大学は学生から選ばれるために、自らの魅力と強みを増強し、内外へ発信することが必須だ。
福岡大学は学部・大学院を合わせて現在19,000名あまり※2の学生が在籍し、建学以来約28万人の卒業生を社会に送り出してきた私立の総合大学だ。西日本最大級の規模を誇る同大学にとっても少子化対策は喫緊の課題となっており、さまざまな対策にチャレンジしている。
その一例が、同大学が持つ先進性のさらなる追求と学内外への訴求だ。同大学企画総務部総務課課長の鮎川洋平氏は「まずは本学の先進的な取り組みをどんどん発信していこうと考えています」と語る。
そこでNTT Comとドコモビジネスソリューションズの両社(以下「ドコモビジネス」)は、地元メディアのRKB毎日放送株式会社(以下「RKB毎日放送」)とタッグを組んでメタバース※3による入学式を提案した。大学の「メタバース入学式」は全国でも初の試みであり、実施できれば先進的なイメージを内外に訴求できる。ドコモビジネスソリューションズ九州支社の足立博之担当課長は「福岡大学の先進性と導入に至る現実性を兼ね備えたソリューションを検討した結果、“メタバース入学式”を提案しました」と語る。
提案そのものは非常に魅力的だったが、大学にはメタバース入学式の前例がなく、実施には不安があった。同大学企画総務部総務課の楢﨑貴志氏は提案を聞いた当時の印象を次のように思い出す。
「新入生たちに『面白いことをする大学』だと思ってもらうには、入学式は絶好の機会だと思いました。でも、我々はメタバースのことをほとんど知らないので、正直不安な部分もありました」
鮎川課長も同様だ。
「本学らしい入学式をどう表現するのか、メタバースの楽しさをどう伝えるのか。まったく初めての試みなので、ドコモビジネスに頼るしかありませんでした」
対策
前例のない「メタバース入学式」の実現を第一に
豊富なノウハウを持つ地元メディアとの協業を選択
ドコモビジネスとRKB毎日放送は提案後すぐに、メタバースの世界観を理解してもらう体験会を、入学式を執り行う同大学企画総務部総務課を中心に他部署も含め実施。参加する学生のユーザビリティ(使いやすさ)を含めて検証を行った。
鮎川課長は「ここまでリアルなんだ!と驚きました。体験会ではVRゴーグルを使いましたが、参加する学生はスマートフォンが基本。検証によってスマートフォンでも参加できることが分かり、いわば“日常に溶け込むメタバース”という可能性に魅力を感じました」と振り返る。
この体験会に参加した教職員が新鮮な感動を覚えたことが、メタバース入学式の実現を大きく後押しすることとなった。
福岡大学の2023年度の新入生は約4,500人。メタバース入学式には少なくとも1,000人規模の参加が見込まれる。スマートフォンで参加でき、分かりやすいUI、イベントとしてのエンターテインメント性や福岡大学らしい切り口のコンテンツ――。これらを勘案した結果、RKB毎日放送が選定したメタバース・プラットフォーム「V-expo」を採用することになった。
実はNTTグループにもメタバース・プラットフォームがあり、福岡大学では一部導入済みだ。そのためメタバース入学式に、このメタバース・プラットフォームを提案することも可能だったがそうはしなかった。
九州支社 ソリューション営業部門 第四グループ 中村愛由美
(右)NTTコミュニケーションズ株式会社
九州支社 第一ソリューション&マーケティング営業部門 水野公太
福岡大学の営業担当であるドコモビジネスソリューションズ九州支社の中村愛由美は、その理由を次のように説明する。
「自社グループのサービスはあくまで選択肢の1つであり、福岡大学にとってベストなソリューションは何かを第一に考えました。入学式を成功に導くためには実施を見据えて、イベント運営にも豊富なノウハウを持つRKB毎日放送と協業したほうがいいと判断し、V-expoの提案を決めました」メタバース入学式のディレクションを担当したのは、RKB毎日放送メディアイノベーションセンターの安増高志氏だ。
「メタバースは単なるテクノロジーではなく、カルチャーやライフスタイルのプラットフォーム。ドコモビジネスを通じて福岡大学とその基本線を共有できたことで、VRなど先進技術に固執することなく、学生が使いやすいコンテンツづくりに専念できたので、仕事がやりやすかったです」(安増氏)
一方の鮎川課長は、「ドコモビジネスとRKB毎日放送の協業による提案力と技術力の高さで、こちらの要望に応えていただきました」と話す。
効果
新入生から「新しい世界を体験でき感動」の声が
メディアに取り上げられ大きな話題に
福岡大学メタバース入学式は2023年4月8日に開催された。司会にRKB毎日放送のアナウンサーを起用したほか、同大学OBのお笑い芸人・ゴリけん氏をゲストに招くなど、4月1日に行われたリアル入学式では伝えきれなかった福岡大学と福岡の魅力を届けることを目指した。
参加者は約500人。開催中は仮想空間内に参加者からの「いいね」を表すスタンプが飛び交い、司会者からクールダウンを呼び掛けるほどの活況となった。ゴリけん氏や在校生代表が参加者の質問に答えるコーナーでは、先輩によるキャンパスライフの楽しみ方が面白おかしく語られ、大いに盛り上がった。メタバース入学式後に参加者へアンケート調査を行ったところ、「仮想空間の新しい世界を体験でき感動した」「格式張った場では見られない、学長のフランクな話が面白かった」など多くの意見が寄せられ、予想以上の反響と手応えを感じたという。
運営サイドとしてメタバース入学式に参加した同大学企画総務部総務課の末吉慶如氏は次のように話す。
「お互いにアバター(分身)なので素性は分かりませんが、会話を楽しめました。若い人は、メタバース上のほうがコミュニケーションしやすいのかもしれません。それを肌で感じ、メタバース活用のヒントを得ることができました」
福岡大学のメタバース入学式は大学としては初の試みということもあり、地元メディアで大きく取り上げられた。鮎川課長によると、式から半年間ほどは多くの取材依頼があったようだ。
RKB毎日放送には主に、学校関係者からの問い合わせがあったという。
「問い合わせは入学式に関してだけではなく、メタバースキャンパスの設計についてなどもありました。具体化している案件があると聞いています。その意味では、福岡大学の取り組みは正しい方向だったのではないでしょうか」(安増氏)
メタバース入学式の実施によって、先進的な取り組みを行っている福岡大学という認知は一定程度、広まったと考えていいだろう。
展望
大学、学生、地域との交流ツールとして活用
地元企業とコラボしながら地域の課題解決に貢献
福岡大学は2023年度の事業計画において「学生の主体的な学びの促進及び学修支援に向けた次世代ICT環境の整備」を、教育面での主な取り組み項目の1つに掲げ、積極的に取り組んでおり、今後も継続する予定である。メタバースをはじめとする多様な最新技術に、学生が触れる機会を次々と増やしていく考えだ。
例えば今回のメタバース入学式で得た知見を活用して、仮想体験型オープンキャンパス、イベントや部活・サークル活動の紹介、就職相談会、学生のメンタルケアなど、「メタバースを学生同士や大学、地域との交流コンテンツとして活用してきたい」と鮎川課長は語る。
ドコモビジネスは福岡大学の取り組みを全面的にサポートすることで、地域の活性化に貢献していく。
営業担当の中村は、メタバースの可能性をさらに追求し、今後は学生・大学・地域などとの「交流」を強く意識した取り組みを進めるつもりだ。また、足立担当課長は、今回のようにフラットな見方で地域のお客さまのニーズにベストマッチするソリューションを選別・提案していくという。
メタバースやAI、各種DXなどドコモビジネスは、多くの先進ソリューションを取りそろえている。日本各地の企業・自治体の課題解決を実現する経験とノウハウを持つ一方で、そのソリューションを最大限に機能させるには各地域の特性やカルチャーを熟知する地元企業との協業は欠かせない。
ドコモビジネスは今後も、日本全国の地元企業と親密にコラボレーションしながら、地域社会・組織の課題解決に取り組んでいく考えだ。
学校法人 福岡大学
- 組織概要:
- 福岡大学は「思想堅実」「穏健中正」「質実剛健」「積極進取」を建学の精神として掲げ、1934年に設立された。9学部と大学院10研究科を合わせて約2万人の学生が在籍する西日本最大級の規模を誇る総合大学だ。2014年に策定した長期ビジョン「福岡大学2014-2023」でも「先進的で高度な研究活動の遂行」「福岡を中心とする地域の活性化と発展の促進」を重点項目に挙げており、その取り組みの認知拡大に取り組んできた。
- URL
- https://www.fukuoka-u.ac.jp/