ヘルスケアDXで高齢者の健康づくり。
中山間地域に輝くウェルビーイングな町へ導入の目的:医療費の抑制、住民の健康管理、地方創生など
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株式会社ドコモビジネスソリューションズは全国のお客さまへ営業活動を行うNTTコミュニケーションズ株式会社のグループ会社です。
課題
人口減少と高齢化による医療費が町財政を圧迫
特に高血圧に関する町民の健康に危機感
広島県の東部、峻険な山々が連なる中国山地の山間にある高原の町、神石高原町。2004年11月、「平成の大合併」を機に、近隣に点在していた神石郡の3つの町と1つの村が合併して誕生した。約382km2と広大な町面積の8割が森林であり、緑豊かな自然環境を誇る一方で、全国の中山間地域と同様に、人口減少と町民の高齢化という課題を抱えている。人口は合併時の12,000人余りから年々減少し、2024年3月には約8,000人と3分の2まで減少した。さらに高齢化の進行も著しく、今や町民の約半数が65歳以上であり、町の医療・介護関連費の増加が深刻となっている。
神石高原町の町長である入江嘉則氏は、「合併時からこれまで、人口動態がプラスに転じたことがありません。人口減少と高齢化は、町の持続可能性を揺るがす大きな問題です」と語る。
町の医療・介護関連費の中で、とりわけ目を引くのが「高血圧」に関わる医療費だ。75歳以上の後期高齢者医療保険制度において、高血圧症の関連費が広島県下で常に上位となっている。神石高原町役場の健康衛生課課長として、町民の健康管理業務を統括する松井和寛氏は、「高血圧は放っておくと脳疾患、心疾患につながり、生命に関わる。特に高齢者は高血圧による認知症の発症も懸念され、私たちの町にとって予防の重要度は高い」と危機感を隠さない。
実際のところ、町はこれまでも、高血圧をはじめとした生活習慣病の予防に取り組んできた。町内に30カ所以上ある「通いの場」※1で、介護予防の「いきいき百歳体操」を週に1回1時間のペースで開催。
高齢者の1割強、約450人が継続して参加するなど一定の成果を上げた。「町の取り組みとしては成功したものの、高血圧になりやすいとされる男性の参加が少なかった」と、健康衛生課の課長補佐である江村英哲氏は振り返る。
こうした高齢者の健康に起因する課題解決をサポートしたのが、NTT Comとドコモビジネスソリューションズの両社(以下、ドコモビジネス)だ。
※1:厚生労働省が推進する、地域の住民同士が気軽に集い、一緒に活動内容を企画し、ふれあいを通して「生きがいづくり」「仲間づくり」の輪を広げる場所
対策
公募を通じて町の医療分野のDXに取り組む
「健康マイレージ」の仕組みで生活習慣の改善へ
町の高血圧予防の取り組みを加速するために、入江町長は「病気でもない、健康でもない、その間の『未病』状態をいち早く察知し、治療が必要となる前に自分で改善する。今の新しい技術なら『未病』を予見できるのではないか」と考えていた。また、今後起こり得る役場の職員不足を想定し、新しい技術と民間の力で行政サービスを補完したいという思いもあり、「高齢者の生活習慣ケアシステム構築」の公募入札を実施した。
政府が推進する自治体DX構想で医療が重点分野の1つだったこともあり、質の高い提案が集まるなかで、神石高原町はドコモビジネスの提案を選んだ。NTTドコモの「健康マイレージ」サービスを中心に、スマートフォンやウェアラブル端末を活用したPHR※2データの収集と見える化、AI分析による生活習慣改善アドバイス、医療ネットワークを通じたオンライン相談(診療)を実現する仕組みだ。
「特にオンライン診療の提案は、医療機関へのアクセスが今後さらに深刻化することが予測される中山間地域の事情をよく理解されており、採択の決め手となりました」(松井課長)
中国支社 ソリューション営業部門 第八グループ 第一チーム
主査 北岡文夫
公募から実証実験、現在の実装事業のプランニングを担ったNTTドコモの古屋大和課長は、公募提案時のことをよく覚えているという。「プレゼンテーション後の質疑応答の時間からすぐに活発なディスカッションが交わされ、町役場の方々の町民を想う熱意を、非常に強く感じました」
しかしながら、いかに優れた仕組みでも、使われないと意味がない。特に高齢者にデジタルデバイスの使用を求めるのはハードルが高く、デジタルディバイド※3対策は必須となる。営業とサポートを担当するドコモビジネスソリューションズ中国支社の北岡文夫主査は、「町役場の協力を得て、通いの場に出向いて説明会を開いたり、役場内にデジタル相談所を設けたりするなど、高齢の方が安心する対面方式のサポート体制を充実させました。コールセンターと対面の両輪で、私たちが町民の方の駆け込み寺になるという意気込みで対応しています」と語る。
※2:Personal Health Record(パーソナルヘルスレコード)の略であり、デジタルを活用して健康・医療・介護に関する患者の情報を統合的に収集し、一元的に保存したデータのこと
※3:インターネットやパソコンなどの情報通信技術を利用できる者と利用できない者との間に生じる格差
効果
年間で1人あたり約35,000円の医療費削減に相当する効果
高齢者とデジタル端末の組み合わせでも高い継続利用率
高血圧をはじめとした生活習慣病予防を目指した町のヘルスケアDXは、2021年度の公募入札から基本構想を固め、2022年度に町の高齢者50人と高血圧患者23人の計73人に、スマートフォンやウェアラブル端末を貸与する形で実証実験を実施。その結果に手応えを得て、2023年度から200人規模に拡大して実装事業を展開している。
医療関連費の観点からは、実証実験時には対象者の平均歩数が1人あたり1日3,800歩増加し、町の試算によるとこれは一人あたり年間約35,000円の負担削減に相当する効果になる。実装事業に関しては年度内のため未計算ながら、現時点の歩数データから推測して同等の削減効果が見込めそうとのことだ。
さらに実証実験時には90%以上、規模拡大した実装事業においても現時点で約70%と高いサービス継続利用率を達成している。これは「健康マイレージ」サービス全体の平均値と比べても異例となる高い数値であり、高齢者のデジタルデバイス使用の難しさを考えると驚異的だ。
松井課長は「目的としていた健康づくり、生活習慣の改善行動の定着が、データから見て取れた。高齢者でもアプリを使えることが分かって、うれしい」と喜ぶ。ドコモビジネスソリューションズ中国支社の金田彰雄担当部長も「参加した町民の方から『自分がどれだけ運動したかが見えて、続ける励みになった』という声を聞いて、町に貢献できたと実感しました」と語る。
当初の参加者数20人からスタートした実装事業は、通いの場を中心に参加者の口コミによって広がり、2023年度の目標としていた200人を達成。いきいき百歳体操の取り組み時のネックであった男性の参加者も、ウェアラブル端末の物珍しさや歩数の競い合いの楽しさから、大いに増加したという。江村課長補佐は「高齢の男性も自身の健康づくりには興味がある。始めるきっかけとして、世代的に新技術や競争による刺激が有効と分かったのは収穫だ」と満足する。懸念していたデジタルディバイド対策は、充実の「駆け込み寺」的サポート体制が功を奏し、現時点で特に大きな問題は発生していない。
展望
町民の健康データを行政にも活かす
ウェルビーイングな中山間地域の創生モデルへ
神石高原町は2023年度を実装事業の初年度と位置付け、2024年度、2025年度と継続して規模の拡大や機能の充実に段階的に取り組む計画だ。初年度は通いの場に集まる健康意識の高い方へのアプローチが中心だったが、今後は無関心層にも積極的に広げていく。「データから町民がどんな暮らしをしているかが見えてくる」(松井課長)ことから、健康管理はもとより、他の行政サービスの改善や拡充にも活用していく考えだ。
さらに、町域の医療機関や従事者の不足を補完するために、オンライン診療の実装も今後のテーマだ。広島県の医療ネットワークや政府のマイナポータルなどの動向を注視しながら、PHRデータ連携の選択肢を検討している。加えて、中山間地域特有の不便な交通事情による医療格差の発生を防ぎたいとも考えている。NTTドコモの古屋課長は「町で進める医療DXに、私たちが持つ交通DXの知見を掛け合わせることで、これから医療機会を失いかねない方々に、新しい通院手段を提供できるかもしれない。町の課題と伴走しながら、引き続き議論を交わしたい」と語る。
神石高原町は将来像として「人と自然が輝く高原のまち」を掲げている。この「人が輝く」とは、どういう意味なのか。
「一言でいうと、ウェルビーイングです。神石高原町は、人が心も体も健康で、生きがいを持って暮らしていける町を目指すということ。今回の医療分野に限らず、さまざまな分野に新しい技術を活用することで、その実現に近づけるのでは。ドコモビジネスの提案に期待しています」(入江町長)
ヘルスケアDXという先端技術の社会実装を通じて、日本の中山間地域の将来性に明るい見通しを示した神石高原町の功績は大きい。ドコモビジネスソリューションズ中国支社の助永宏司担当部長は「神石高原町で得た知見を先進モデルケースとして、ほかの中山間地域に展開することも考えたい」と展望を語る。
ウェルビーイングな町づくりへ、神石高原町とドコモビジネスは今後もタッグを組んで邁進していく。
神石高原町
- 自治体概要:
- 広島県東部の標高400〜500mの山間に位置し、町面積約382km2の80%以上を森林が占める自然の豊かな町。人口約8,000人のうち約半数が65歳以上の高齢者である。平成16年5月、中山間地域に点在する神石郡の3町1村が合併し、現在の神石高原町となった。高原野菜などの農業を基幹産業としつつ、メーカーの生産拠点があるなど製造業も盛ん。また、自然環境を活用した観光業のほか都市部からの移住・定住にも力を入れている。(2024年3月現在)
- URL
- https://www.jinsekigun.jp