まちのにぎわいを創出するシェアサイクルシステムを
地元事業者と共に支えていく導入の目的:地域活性化、データ利活用、公共交通機関の補完など
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株式会社ドコモビジネスソリューションズは全国のお客さまへ営業活動を行うNTTコミュニケーションズ株式会社のグループ会社です。
課題
ポストコロナの「選ばれる都市 新潟」へ
新潟市都心エリアの滞在率・回遊性の向上
多くの地方都市は今、少子高齢化とポストコロナという2つの大きな課題に直面している。自分たちのまちの魅力を再確認し、いかにより暮らしやすく働きやすいまちにしていくか。人々の意識が高まっている脱炭素にも対応しながら、その課題克服に取り組む必要がある。人口約77万人※1の政令指定都市・新潟市も例外ではない。
新潟市は2021年2月、まちづくりの方向性やビジョンを示す「選ばれる都市 新潟市~ウイズコロナ・ポストコロナ時代のまちづくり~」を公表した。交通の要所で再開発が進む新潟駅周辺と商業施設が集まる繁華街の
その具体的な施策の1つが、2022年9月からスタートした「にいがた2kmシェアサイクル」だ。これは、乗りたいときに借りて、行きたい場所で返す電動アシスト自転車のシェア(共有)サービスで、スマートフォンのアプリで登録すれば、QRコードで電動アシスト自転車を誰でも借りられるというもの。この施策に、株式会社ドコモ・バイクシェア(以下、ドコモ・バイクシェア)のプラットフォームを活用し、NTTコミュニケーションズとドコモビジネスソリューションズの両社(以下、ドコモビジネス)が運営主体の一社として参画している。
参事・都市交通政策課長 野坂俊之氏
新潟市は、2019年度に策定した「にいがた都市交通戦略プラン」で掲げた5つの目標の1つ「都心部での移動円滑化」の実現を目指し、このプラットフォームを使った実証実験を行ってきた。新潟市都市政策部都市交通政策課の野坂俊之課長は、シェアサイクル導入の背景を次のように説明する。
「都心部での移動円滑化は、まちのにぎわいを創出することが大きな目的です。信濃川と阿賀野川がつくり上げた越後平野は、なだらかな地形のため自転車との親和性が高い。『にいがた2km』を新潟市全体の成長エンジンにするために、市民の皆さまがさまざまな交通手段を選んで、まちなかをより自由に回遊できるようにするのが狙いです」
まちなか(新潟市都心部)のにぎわいを取り戻すためには、市民や観光客の滞在率・回遊率を向上させることが欠かせない。そこで導入されたのが「にいがた2kmシェアサイクル」だ。
「電動アシスト自転車を借りたり返したりする場所(ポート)、システム、認知拡大など、シェアサイクルそのもののスキームをどうするか。市民の皆さまの多様なニーズに応えるには、公共交通機関を補完する意味でも、行政が立ち上げつつ民間が運営していく公設民営方式での実装が重要でした」(野坂課長)
※1:767,565人(2023年12月末現在。新潟市ホームページより。https://www.city.niigata.lg.jp/shisei/soshiki/toukei/index.html)
対策
実績豊富なドコモ・バイクシェアのプラットフォーム
地元事業者との共同体による公設民営方式で運営
ドコモビジネスは、プロポーザル(企画提案入札)によって「にいがた2kmシェアサイクル」の運営に携わっている。提案したプラットフォームは、前述のドコモ・バイクシェアの「バイクシェアサービス」。現在では、新潟市を含めて全国37の自治体・地域で採用されている実績豊富なシステムだ。
市が実施主体となり公設民営方式で運営する以上、地元事業者との協業・連携が非常に重要になる。「にいがた2kmシェアサイクル」では、実施主体が新潟市、運営主体が一般社団法人にいがたレンタサイクル(以下、にいがたレンタサイクル)とエヌシーイー株式会社(地元の総合建設コンサルタント。以下、エヌシーイー)、そしてドコモビジネスだ。
プロポーザルを担当したNTTコミュニケーションズの丸山泰志は、「電動アシスト自転車の台数やポートの場所などは導入済みの地域を参考にできましたが、やはり新潟市ならではの特性があります。そのあたりは、にいがたレンタサイクルの経験とノウハウがなければ実現できませんでした」と、協業することに大きな意味があったと述べる。
プラットフォームサービス本部
5G&IoT部 インテグレーションサービス部門
第三グループ 第五チーム
丸山泰志
代表理事 高橋正良氏
にいがたレンタサイクルの高橋正良代表理事は新潟市で20年以上、自転車関連事業を行っている。地形を熟知しているし、都心部の商店街の人たちとは顔見知りだ。
「シェアサイクルの運営自体には自信がありましたが、GPSなどのデータをどう分析して、その結果を次のアクションとしてどのように生かし新潟市に提案すればいいのか、そのあたりの手段は持ち合わせていません。ドコモビジネス、エヌシーイーと協業することで対応できました」(高橋代表理事)
3社の主な役割は、にいがたレンタサイクルが実務を、エヌシーイーがデータ分析を、ドコモビジネスがプラットフォーム運用とデータ収集をというように分担している。それぞれ異なる分野の知見を持ち寄った共同体だからこそ、最初は共通理解を深める点などで難しい部分があったと高橋代表理事は言う。「お互いに何か分からないことがあると、その都度質問しなければ進まないのですが、丸山さんに連絡すると、すぐに的確な回答をしてくれる。最初はドコモビジネスのような大きな組織がどこまでコミットしてくれるのか不安がありましたが、コミュニケーションが増えるごとに払拭されました。とても助かりましたね」
高橋代表理事は、丸山を含めたドコモビジネスの素早く的確な対応をこのように高く評価している。
効果
ほかの導入エリアと比べて高い回転率
GPSデータ分析の結果で主要観光地での滞在を確認
2022年9月に150台30ポートでスタートした「にいがた2kmシェアサイクル」だが、会員数の累計はスタート時の2,734人から、およそ1年で2倍以上まで増えた。アンケート調査※2では、利用者はおおむね満足しており、過半数がまちなかの滞在時間・移動量が増えたと回答。市民や利用者から総じて好評を得ているようだ。
野坂課長が特に評価しているのは回転率の高さだ。回転率とは平均利用回数を電動アシスト自転車の台数で割った値。つまり1台当たりの利用回数だ。シェアサイクル事業の導入当初は、回転率が0.5を切る県・エリアは珍しくないが「にいがた2kmシェアサイクル」は0.72という数値を出した。さらには2023年8月時点では1.44という高い値を示した。
「冬は雪が降るため利用者が減り回転率は下がりますが、現状で、この値はすごいと思います」と野坂課長。丸山も「ほかではあまり見られない数値です。導入から1年が経過しても好調を持続していると言っていいと思います」と安心した様子だ。実際のGPSデータ分析を見ても、「にいがた2km」周辺の主要観光地を中心にヒートマップが赤く表示されており、多くの利用者がいることを確認できる。
これらの結果を踏まえ2023年5月には、人気スポットやアンケートで希望が多かった場所にポートを増やす一方、使いづらく稼働が少なかったポートを撤去。2023年9月には電動アシスト自転車を20台増やし、現在では計170台38ポートが稼働している。
「にいがた2kmシェアサイクル」が好調なスタートを切れた理由は何なのか。高橋代表理事は大きく3つあると次のように分析している。「1つ目はレンタルサイクル事業を長く続け地域に根付いていた結果、ボランティアを含めた多くの方々や企業から協力いただけたこと。2つ目は、ポートを車の通行量が多い国道沿いの場所に設置して電動アシスト自転車を目立たせたこと。それが市民への認知拡大に役立ったと思います。3つ目が、それぞれの強みを持った3社の共同体で運営できたことですね」
※2:新潟市によるWebアンケート調査。調査期間:2023年2月1日~3月1日。回収数:463(うち利用者は406)
展望
安定収益を目指し広告媒体として活用
「にいがたモデル」として全国へ
新潟市では、今後これまで蓄積したGPSデータの分析をさらに進め、より効果的で利用者が使いやすい場所にポートを設置する。そして市民や観光客をワクワクさせる「にいがた2km」の実現を目指していく。
残された大きな課題は、年間を通じた安定的な収益を得ることだと野坂課長は考えている。「雪の多い新潟市では、どうしても冬期の利用は減ってしまいます。例えば、企業に電動アシスト自転車を広告媒体として活用していただく。市民の目を引くことができれば『にいがた2kmシェアサイクル』のPRにも役立つので一石二鳥です。そんな取り組みにも期待しています」
ほかにも、市民に対する認知拡大の地道な取り組みも欠かせないだろう。「にいがた2kmシェアサイクル」は、スマートフォンのアプリに登録して利用するシステムなため、特に高齢者への啓発やサポートは欠かせない。
ドコモビジネスソリューションズ新潟支店でソリューションサポートを担当する窪田由紀子は、区やにいがたレンタサイクルと共同で高齢者向けのシェアサイクル体験会を開催している。公民館や図書館などに集まってもらい、その場で電動アシスト自転車に試乗。「にいがた2kmシェアサイクル」のアプリの入手・登録を促す取り組みだ。
「試乗された皆さんは『こんなにいいものなんだ』と、電動アシスト自転車とシェアサイクルの便利さに喜んでいましたね。アプリを入手・登録する、ひと手間をお手伝いするだけで利用者がどんどん増えていく手応えがあります」(窪田)
ドコモビジネスは高い評価を得たこの施策を「にいがたモデル」として、新潟県、そして全国へと広げていきたいと考えている。そのためには「にいがた2kmシェアサイクル」だけでなく、最終ゴールである新潟市都心部の活性化に向けて、地元事業者と一緒に取り組もうとしている。
新潟市
- 自治体概要:
- 本州の日本海側では唯一の政令指定都市。信濃川と阿賀野川が流れ込む広大な越後平野は、米など豊富な農畜産物を育んでいる。国際空港をはじめ、港湾、新幹線、高速道路網などが整備された交通拠点であると同時に、国内最大の水田面積※3を持つ大農業都市でもある。
※3:28,200ha(2022年の田耕地面積。農林水産省「作物統計調査」令和4年産市町村別データより。https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&lid=000001404460)
- URL
- https://www.city.niigata.lg.jp/