導入事例

ロゴ:聖マリアンナ医科大学 聖マリアンナ医科大学病院
救命救急センター

視覚情報の本格共有を進めて
救命救急医療の現場をサポートしたい導入の目的:地域医療機関の連携、救急医療体制の拡充、医師の働き方改革など

聖マリアンナ医科大学
課題
  • ●音声に頼った救急車からの情報には、患者の現状と齟齬そごが生じることがある
  • ●患者の正しい情報が共有できずに適切な搬送先/転送先の選定が遅れる場合も
  • ●救命救急医療の質の維持と向上、医師のマルチタスク化や働き方改革を両立するニーズの高まり
対策
  • ●ローカル5Gネットワークを活用した地域医療機関連携の実証実験
  • ●救命救急士がカメラやスマートグラスを活用し、高精細映像を熟練医と早期共有
  • ●実験の煩雑な準備・手続きをドコモビジネスソリューションズ神奈川支店がサポート
効果
  • ●患者の搬送先/転送先の選定にかかる時間を32.8%削減
  • ●遠隔医療支援によって熟練医の拘束時間を70%削減
  • ●病院前の救急医療における視覚情報の有用性が実感できた
展望
  • ●視覚情報共有のコスト&ベネフィットを精査し次段階へ
  • ●マンパワーが減少する医療業界の危機を、地域全体を含む組織的なDXで解決
  • ●今回の知見を全国の医療機関や自治体へ広げたい

株式会社ドコモビジネスソリューションズは全国のお客さまへ営業活動を行うNTTコミュニケーションズ株式会社のグループ会社です。

課題

音声による情報伝達機能の限界と
医師のマルチタスク化への対応

 聖マリアンナ医科大学病院救命救急センターは、神奈川県川崎市の北部医療圏※1における唯一の三次救急医療機関※2だ。都内を含む周辺地域から年間6,500件以上の救急搬送を受け入れている。厚生労働省が実施する「救命救急センターの充実段階評価」で2019年から4年連続で最上位のS評価を受けるなど、高い救急医療体制を構築している。

 NTT Comとドコモビジネスソリューションズの両社(以下、ドコモビジネス)は、学校法人聖マリアンナ医科大学とトランスコスモス、川崎市と共同で、ローカル5Gを活用した救命救急医療の強化を目指した実証実験を行った。具体的なテーマは「ローカル5G広域連携」「遠隔支援による効率化・高度化」「院内MaaS※3における効率化と安全性向上」の3つである。

 聖マリアンナ医科大学病院救命救急センター副センター長の森澤健一郎医師は、実験の背景を「音声に頼った情報伝達手段からの脱却と医師のマルチタスクへの対応。この2点が大きな課題でした」と語る。

 1点目の音声による情報伝達の問題について、森澤医師は「救命救急士からの初期連絡は携帯電話による音声情報が中心ですが、患者の評価は実際に患者の横にいる人の主観によって違います。その情報が手書きのメモとなり、伝言ゲームのように伝わる。その結果、最初に発信した人の意図と違うケースが非常に多い」と指摘する。

 このような状況になると、受け入れ医療機関の準備(専門医や資器材など)が非効率になったり、適切な搬送先/転送先を選定するのに時間がかかったりするケースが増えるのだ。

 2点目の医師のマルチタスク対応については、「現代医療は非常に高度化しており、医師によって、できる領域とできない領域がはっきりしています。複数の専門医がいて、ようやく1人の患者さんを診ることができます。

聖マリアンナ医科大学病院 救命救急センター
副センター長
教授 森澤健一郎 医師

しかし、救命医療の現場に複数の専門医を常に配置しておくのは現実的ではありません」と言う。

※1:高津区、宮前区、多摩区、麻生区の人口を合計すると約87万人

※2:一次・二次救急では対応できない重篤患者や特殊疾病患者を受け入れ、より高度な救命救急医療を提供する医療施設。

※3:MaaSは、Mobility as a Serviceの略字で次世代移動サービスという意味。

対策

ローカル5Gネットワークの実証実験で
救急車や医療機関と視覚情報を共有

 これらの課題を解決するためにトライしたのが今回の実験である。ローカル5Gネットワークを構築し、救急車と聖マリアンナ医科大学病院救命救急センター(三次救急)、地域医療機関(二次救急)を繋ぎ映像情報を共有した。

 例えば、救急車に乗った救命救急士がカメラを使って音声と映像で患者の情報をいち早く聖マリアンナ医科大学病院へ届ける。同病院では、より正確な患者の情報を得ながら、過不足の無い、効率的な受け入れの準備を開始できる。二次救急へ搬送された後に、重症化したり、専門的医療が必要な病態と診断され、救急車を用いて三次救急病院へ転送する場合にも、三次救急の専門医が、移動中の患者の映像を共有しながら、遠隔支援によって救急車内での安全を担保することが可能だ。

オペレーションルームでリアルタイムな映像情報を確認する森澤医師

 「デジタル化された情報伝達手段を介在させることによって、1人の患者さんに対して、複数の専門医の知見を動員できました」

 病棟業務中や手術中の医師は、救急外来にいなくても映像情報で患者の様子が分かるため、必要なタイミングで救急外来へ出向ける。結果として救急外来での待機時間が減少し、その時間を他の業務に充てることができる。病院前の現場、救急外来、病院内の各部署(手術室、検査室)がリアルタイムに視覚情報を共有できれば、医師が処置に向かうタイミング、治療法やその優先順位、資器材の準備などの最適化・効率化が図れるのだ。

効果

搬送/転送先の選定時間を32.8%削減
さらに医師の拘束時間は70%削減に成功

「高齢化社会や新型コロナウイルス感染など、119番通報の件数が増えると、対応できる救急車両や医療従事者が足りなくなります。そのような課題を抱いているところでの今回の実験。視覚情報の共有は、今後の救命救急医療に間違いなく有用であると実感できました」と、森澤医師は実験結果に満足している。
 森澤医師の言うように、実験結果は概ね良好だった。例えば患者の搬送/転送先にかかる効率化では、選定時間の削減目標は9.18%だったが、結果は32.8%減。医師の拘束時間に関しても、削減目標48.4%以上だったが実際は70%減という結果となった。
 また森澤医師は、実験実施までの準備についても評価している。「この実証実験に向けて関わってくれたスタッフの苦労は尋常ではありません。提案書を作成し予算を組み資金を調達。さらにはミーティングの時間調整から実験場所の交渉などまで、準備に約3年を要しました。特に各医療従事者の細かいニーズに対応するのはたいへんだったと思います」
 例を挙げると、医師は日常的に聴診器を使うので音声情報のデバイスがイヤホンでは不都合だ。かといってスピーカーでは、患者や家族に聞こえてしまう。映像に関しても、看護師はスタッフステーションに大きな高精細のモニターがあればいいが、医師は急なコンサルト(診察・相談)に応じるために、どこにいても対応できるよう小さくて持ち運べるサイズがよく、強い電波もほしい。資器材を背負って患者の自宅や事故現場で処置をする救急隊も同様だ。
 実際、どうだったのか。この実験を担当したドコモビジネスソリューションズ 神奈川支店の三浦翔太主査に聞く。「確かに作業量や確認事項はたくさんありました。自分たちで議論した結果を森澤先生に確認すると、我々の理解が誤っていたこともありました。そんなときは、病院関係者の皆さまがかみ砕いて説明してくださり、認識の違いを少しずつ埋めながら進めることができました」

 三浦主査は、実験に参画するベンダーではなく、同じゴールに向かう仲間として医療現場に飛び込んだと話す。救命救急医療の現場が抱える課題を解決すべく、当事者意識をもって取り組んだことが森澤医師からの高い評価につながったといえるだろう。

株式会社ドコモビジネスソリューションズ
ソリューション営業部 神奈川支店 第一グループ 第二チーム
主査 三浦翔太

展望

先んじて取り組むから見える課題対応
組織力とDXで医療業界の危機を救う

 森澤医師は救命救急医療における視覚情報の有用性は十分に実証できたとしながら、今後の課題も見つかったと言う。代表的なのが、導入・運用コストの負担に関してだ。「現実的には視覚情報共有に対して保険点数がつくわけではないので、病院にとっては持ち出しになります。より良い医療を提供したい気持ちはみんな持っていますが、実装するには、行政の理解を得るために、コストとベネフィットを精査する必要があります」
 高度化した医療の質を落とすことは当然できないため、いかに効率良く医療従事者の働き方を改革していくかが問われている。森澤医師は「今回のような視覚や音声の情報と、最終的には診断書および紹介状などのテキスト情報をすべてクラウド上で共有できれば、減少しつつある医療機関のマンパワーを補えるのではないかと期待しています」と話す。
 救命救急医療の現場は、かつて勤務時間、キャリアプラン、プライベートは二の次で、医療従事者の意志と矜持で支えられてきた。聖マリアンナ医科大学病院では先んじて対応したことで、これらの課題は組織的に解消しているそうだ。だからこそ、森澤医師は力を込めて説明する。
 「課題が山積みだったからこそ、我々は先手を打つことができました。この実証実験も5年後10年後に『早くから取り組んできて良かった』と思うときがくるでしょう」

 さらに森澤医師は続ける。「我々は医療現場とその課題を熟知しています。しかし、その課題を解決するテクノロジーを知らないし、実装に向けてどのような行動を起こせばいいのか分かりません。大きな組織力とDXで医療業界の危機を救ってほしい。ドコモビジネスに期待したいのはそこです」
 三浦主査は「この実験に携わって、救命救急医療の現状を垣間見ることができました。ここで得た知見を川崎の医療現場実装につなげ、さらにはより多くの医療機関や自治体に活用いただけるよう取り組んでいきたい」と語る。日本の救命救急医療におけるドコモビジネスの役割は、ますます大きくなっていく。

群馬県長野原町の外観

聖マリアンナ医科大学病院 救命救急センター

組織概要:
1980年に神奈川県初の救命救急センターとして開設。救命センターの重症病床は66床、専従医36人など、一次から三次救急まで幅広く対応できる体制を敷いている。新型コロナウイルスへは、日本で感染が確認された当初から、いち早く対応してきた。
URL
https://www.marianna-u.ac.jp/hospital/departments/critical_care

お問い合わせ

ページトップに戻る