町民一人ひとりに迅速かつタイムリーに情報配信し利便性向上
「京極町アプリ」から始まる地域・行政DX
導入の目的:地域活性化、自治体DXの推進、住民サービス向上

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株式会社ドコモビジネスソリューションズは全国のお客さまへ営業活動を行うNTTコミュニケーションズ株式会社のグループ会社です。
※LGPF・・・Local Government Platform(LGPF)はNTT Comが提供する自治体、地域の事業者、住民向けのプラットフォームサービスです。
課題
町民の顔が見える小規模自治体だからこそ
一人ひとりが求める情報を届けたい
北海道の京極町は道央の山間に位置し、町の中心部は羊蹄山の東山麓にある。蝦夷富士と呼ばれるこの羊蹄山と、豊富な湧き水が流れ出るふきだし公園を景勝地とする名水の里だ。
町の人口は約2800人。地方の中小自治体の例にもれず、過疎高齢化が大きな課題となっているが、「困ることばかりでもない」と同町の佐古岡秀徳町長は話す。
「この人口規模なので、私や職員と、町民との距離がとても近いのが京極町の特徴です。『あの人は元気かな』『この人はどうしているか』と常に気をかける『顔の見える関係』です。」(佐古岡町長)
行政の目が町民に行き届くのは、小規模自治体ならではの良さだ。佐古岡町長には、町民一人ひとりが必要とする行政情報を、適時に届けられる体制を整えたいという思いがあった。

渡部勇輝氏

佐古岡秀徳氏
しかし、それが必ずしも上手くいっていないという課題感もあった。町域の大半を山岳と丘陵地が占めており、行政情報の主要な発信方法の1つである回覧板は、ひと回りするのに2週間もかかる。しかも、広報や回覧板などの紙媒体は、情報の閲覧状況を確認する手立てがなかったのだ。
「ホームページでも情報配信はしていますが、Webは欲しい情報を自発的に探さなければならないですし、情報量が増えていくと欲しい情報が埋没して見つけられないこともあります」と語るのは、京極町町役場 企画振興課 地域振興係長の渡部勇輝氏。
京極町では、過疎化が徐々に進行する一方で、外国人居住者は増加しており、行政が発信する情報の多言語化を図っていく必要性もあった。佐古岡町長がNTT Comとドコモビジネスソリューションズの両社(以下、ドコモビジネス)が提供するデータ活用型プラットフォーム「LGPF」をベースとした「町アプリ」に関心を寄せたのは、そうした情報発信上の課題が理由だった。
対策
地域独自プラットフォーム「LGPF」導入
オフライン時(圏外時)でも利用可能な
災害時避難マップ表示機能も付加
京極町は総合計画の基本構想の中の目標の1つに「みんなが主役なまちづくり」として、DXの推進を掲げている。そして「京極町のDX推進の要は情報発信である」というのが佐古岡町長の考えだった。この情報発信の課題に対峙し提案を進めたのが、NTT Comの村上俊介とドコモビジネスソリューションズの長澤響だった。2022年、2人はわずか4か月の間に15回も同町へ足を運び、打ち合わせを重ねていった。
そこまでした理由は「システムやアプリを入れて情報発信ができれば、それで済むという話ではありません。根本的な課題解決を図るためには、問題に取り組んでいる職員の皆さんに直接お話を聞きながら、課題を洗い出していくことが大切だと考えました」(長澤)
当初、同町は既存のSNSを利用した情報配信を考えていた。しかし、このやり方では詳細なフィードバックが得られない。一方、「LGPF」ベースの「町アプリ」には「データ利活用ダッシュボード」が搭載されている。この機能で得られるような、町民の反応や声がわかることが必要だった。
「ダッシュボード機能で随時、町民の情報閲覧状況を見ることができます。伝わりやすい情報をどうつくるかを検討するのにも使えますし、集積した情報は行政施策の立案にも利用できる利点があります」と長澤は語る。
この機能は地域事業者も利用でき、クーポンの発行も可能で、クーポンの閲覧率や利用率を通じて、事業者自身の営業に役立てることもできるため「町の活性化につながる」と京極町からも高い評価を受けた。

北海道支社 ソリューション営業部門 第二グループ 第一チーム
担当課長 村上俊介

北海道支社 ソリューション営業部門 第二グループ 第三チーム
長澤響
また、防災情報の発信にも「オフライン時災害マップ表示機能」といった工夫が施されている。これは災害時に通信が遮断されたとき(圏外時)、アプリが緊急モードに自動で切り替わり、京極町ハザードマップが表示されるというもの。これによって町民は、緊急時でも地域の避難所を確認できるようになる。これは京極町からの要望をさらに発展させて開発した機能だった。
こうして仕様を整えた2024年10月、京極町とNTT Comは連携協定を締結。これは、「町アプリ」の活用による情報配信の高度化と行政DX推進を柱とする内容で、両者が今後も継続して手を携え、地域・行政DXを進めていくことを定めたものだった。
「私たちは目先の課題解決だけをめざしたのではなく、京極町様の5年、10年先を見据えて、現在の課題、これから発生しうる課題を解決していくことを第一義に考えました」と村上は語る。
長澤は「私たちのお客さまは京極町役場ですが、京極町役場にとってのお客さまは、町民の皆さまです。京極町に住まうステークホルダーの皆さまにとって何が一番良いのかを常に念頭に置いていました」と振り返る。両者はほかにも、国の「デジタル田園都市国家構想交付金」の申請支援や町民・事業者への説明会を実施するなど、町職員の業務負担を軽減することにも貢献した。さらに、「LGPF」と「町アプリ」を先行導入した群馬県長野原町の職員とのオンライン意見交換も実施しており、京極町のさらなるDX推進のために活動している。
効果
予想を上回った地域事業者の利用登録
職員のアプリ導入への熱意が後押し
「京極町公式アプリ」は2025年3月にリリース。リリースからわずか2日間で、120件アプリがダウンロードされていた(取材後3月末時点では600ダウンロード)。「人口規模からすれば、町民からの関心も高く好調な滑り出しではないか」と語るのは渡部氏。
地域事業者の登録数も予想を上回る。同町で商工会員の事業者は100社ほどだが、事前募集ではその5分の1にあたる約20社が登録済みだ。
「説明会では、今使っているホームページやSNSからこちらに切り替えようかと言う事業者もいました。ダッシュボード機能で、情報発信の効果が測れることがやはり魅力なのだと思います」と渡部氏は分析する。
ほかにも予想していなかった効果があった。アプリの検討・導入にあたり、役場の職員にプロジェクトへの参加を渡部氏が中心となって呼びかけた。
「新しいデジタルツールを導入するときは、得てして1人か2人の担当に任されがちです。しかし、このツールは、役場内だけに留まらず、広範な町の課題解決にかかわるものですから、できるだけ多くの職員の意見・提案を聞きたいと思いました」(渡部氏)
この呼びかけに何人もの職員が手を挙げ、白熱した議論が繰り広げられた。その様子を聞き及んだ佐古岡町長は「良い職員に恵まれている」と実感したと話す。村上も「システム導入後の対応は自治体によって熱量が違うものですが、京極町の職員の皆さまには、ひいては町民にかかわることだ、との強い熱意を感じていました」と振り返る。その熱意が、京極町とドコモビジネスでそれぞれ役割を担った4人の後押しとなっていた。
展望
白熱した対話で築かれた信頼関係と
連携協定をもとに次なる課題解決へ
京極町とドコモビジネスのチームは今後、連携協定をロードマップとして地域・行政DXを進めていくこととなる。今回のアプリでは見送られたものの、冬の除雪車の運行情報の掲載や、情報の多言語化、河川監視カメラ映像の配信、町民同士が交流できる掲示板コンテンツも検討中だ。また、スマートフォンでの情報取得に不慣れな町民に向けたスマートフォン教室や、事業者向けのデータ活用講座などは2025年4月より開始し、普及率向上に向け歩み始めている。
連携協定をもとにした活動として、GX(グリーントラストフォーメーション)テーマでは、Jクレジット(温室効果ガスの排出削減量・吸収量をクレジット化する制度)創出に向けた活動を2025年度中、行政DXテーマでは、DX体験会やセミナーを全職員向けに5月頃より開始する。
「当初は、NTTほどの大きな通信会社が、京極町のような小さな自治体の課題に向き合って提案をしてくるなんて思ってもいませんでした。それがここまで親身になってやってもらえるとは。そのことに感じ入るものがありました」と、佐古岡町長は一連の経緯を振り返る。
対して「真摯に提案に耳を傾けてくれたことに感謝するのは、私たちのほうです」と返すのは、村上。「NTTグループは通信専門の会社と思われがちですが、ほかにもできることはまだまだあります。さまざまな事例を参考にしながら、ネットワークやソリューションを駆使して、自分たちに何ができるかを考え、それを実現していくことが私たちの務めです」
長澤も「京極町の皆さまとはさらなる信頼関係を築けるよう、これからも町に住まう方々の気持ちに寄り添っていきたい」と意欲にあふれている。
一人の職員が何役も受け持つ状況が発生する京極町のような比較的小規模な自治体では、業務の効率化・省力化は必須になっている。京極町も今後さらなる行政DXに乗り出す予定だ。ただし、これからの課題も残っている。
「すべての職員がDXに積極的なわけではない」と語るのは佐古岡町長。また同町総務課情報システム係の水口裕太氏は「初めにツールありきの話ではない」と話す。「DXの本質は、仕事の仕方をどう改善していくか。効率を上げて、その分を新しい住民サービスにどうつなげていくかという観点が大切です。それには、私のような情報担当だけでなく、住民サービスに従事している職員たちが話し合って進めていくことが大切だと思っています」
これは推進を担う担当者の共通認識です。佐古岡町長は「まずは誰にとっても成果が目に見えやすい『町アプリ』の活用とペーパーレス化を引き金に、行政DXへの意識を醸成していきたい」と語る。
「京極町公式アプリ」による情報配信と行政DXは今、その端緒についたばかり。重要なのはむしろ、これからの展開だ。京極町チームとドコモビジネスの強固な信頼関係と密な連携が、それを推し進めていくことになる。

北海道京極町
- 組織概要:
- 北海道の西部、羊蹄山の東のすそ野に広がる人口3,000人弱の緑豊かな町。羊蹄山の湧水のある「ふきだし公園」が有名で、環境省の「名水百選」に選ばれる名水の町。「京極温泉」も観光スポットになっている。
- URL
- https://www.town-kyogoku.jp/