国内初!ドローンを活用し配水ポンプ場設備を遠隔巡視
水道施設の維持管理の効率化・最適化で、
将来にわたる安全で良質な水の供給を可能に
導入の目的:業務効率化、ドローンとセンサーによる遠隔巡視

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株式会社ドコモビジネスソリューションズは全国のお客さまへ営業活動を行うNTTコミュニケーションズ株式会社のグループ会社です。
課題
「近代水道発祥の地」に
山積するさまざまな事業課題
1887(明治20)年、英国人技師パーマー氏の指導のもと、日本で最初の近代水道が創設された横浜。その「近代水道発祥の地」としての誇りを胸に、横浜市水道局は「暮らしとまちの未来を支える横浜の水」との基本理念を掲げる。そしてめざす将来像の実現に向け、「確かな信頼」「多様な連携」「果敢な挑戦」の3つを基本姿勢として事業運営にあたっている。
「水道は市民の健康・生命・日常生活はもとより、都市の経済活動や社会を支える最も重要なインフラの1つであることから、24時間365日、安全で良質な水を安定してお届けするということを最大の使命と考えて事業運営をしています」と語るのは、横浜市水道局浄水部浄水課長の羽布津慎一氏。
横浜市の水道事業はここ10年で大きく変容したという。「横浜市の人口は2021年をピークにマイナスに転じ、人口減に伴う水需要の減少による水道料金収入の減収や、高度経済成長期に大量に建設した水道施設の老朽化、自然災害の激甚化、デジタル化の進展などによる社会情勢の著しい変化、脱炭素への対応など、さまざまな課題に直面しています。膨大な水道施設を維持管理していくには人手が必要です。これまで視覚や聴覚などの五感を駆使した特有のスキルで設備の巡視にあたってきたベテラン職員も退職時期を迎える一方で、新規に職員を採用することも厳しい状況。新たな課題として担い手不足への対応が迫られてきている。そんな厳しい状況においても、市民生活や経済活動を支える重要インフラとして、持続可能な事業運営を行う必要があるのです」と羽布津課長は憂慮する。


水道事業のみならず横浜市ではこれまでもさまざまな課題解決に取り組んできた。以前からNTTグループとも「AI運行バス®」や「5G×自動運転MaaS」など交通課題への実証実験、チャットボット「イーオのごみ分別案内」の実証実験などを共同で行なってきた。そうした関係性もあった中で、水道局職員の方が2023年度6月末に「Japan Drone 2023」というイベントでNTT Comとドコモビジネスソリューションズの両社(以下、ドコモビジネス)のブースを訪れたことが、今回の事例の端緒となったのだ。
横浜市水道局浄水部浄水課浄水係長の松田浩明氏は語る。
「横浜市水道局ではすでに2019年に東京都水道局や大阪市水道局と共同で『水道ICT情報連絡会』を設置。水道事業体の抱える課題(ニーズ)を広く発信・共有し、民間企業などの技術(シーズ)とのマッチングを行なうことで、官民共同で課題解決に向けて取り組んでいます。現在では全国の22水道事業体が参加していますが、この連絡会を通じてARを活用したスマートグラス技術を導入し、ベテランの技術の継承や、業務の効率化を図っているという実績もあります。局内にはイノベーションの創出を狙う担当部署も新設されるなどDXに積極的だったという背景もあり、ドローン活用も検討し始めていたところでした」
きっかけは2021年に和歌山市で発生した水管橋の崩落。これを機にさまざまな自治体で水管橋の点検にドローンの活用が加速する。横浜市でも一部の水路橋の劣化状況をドローンで調査したり、本市が管理している道志水源林のナラ枯れ被害調査をドローンで実施したりと実績もあった。
「ただ、喫緊の課題であるポンプ場の維持管理については、職員の代わりにドローンを使うには、狭い場所や機器が複雑に入り組んでいる箇所を正確に自動飛行させないといけないし、何より細かい計器の値や設備の異常の有無が判断できる高精度の画像技術が必要となるため、ちょっと難しいのではないかと半信半疑でした」(松田係長)
対策
自律飛行型ドローンの実証で
期待を超える成果を得る
ドローン巡視を検討し始める前段階では、当初、定置カメラでの監視も候補に上がったという。しかし、設備の混み入った狭い場所は死角も多く確認が難しいことや、ポンプ場は広くカメラの台数も相当数が必要となるため、コストやメンテナンスの煩雑さから断念した。
そんな中、あらためてドローンの活用を提案してきたのがドコモビジネスだ。横浜市水道局浄水部浄水課浄水係の小林貴氏は当時のことを「ドローンの導入では、これまで熟練した職員が視覚により確認してきた箇所すべてを自動飛行で撮影して回れるのか。また本当に異常の有無が判断できるレベルの画像が撮れるのか。この2点が大きな不安材料でした。しかし、実証試験で撮影した画像はかなり鮮明で、『これなら使えるな』と確証を得たのです」と振り返る。

イメージ

神奈川支店 第1グループ 第1チーム 井島功貴

「自動飛行や障害物検知にかなり優れているドローン『Skydio
ただ、ポンプ場にあらかじめ配線されていた光回線については、すでにルーターのポートに空きがなかったので使えず、新たにインターネット環境をつくらなくてはいけませんでした。そこで、まず低軌道衛星ブロードバンドインターネットサービスのStarlink Business
実証試験の実施環境として、市内にある23ポンプ場の中でも最も狭い仏向ポンプ場を選定。ここで可能であれば、ほかのポンプ場にも展開できるとにらんで実施した。その結果、問題なく飛行でき、かつ撮影された画像の精度も高く、十分に巡視の目的に堪えるソリューションであることが確認できたため、市内23か所のポンプ場へ順次本格導入していく運びとなった。

効果
マンパワーに頼っていた巡視点検の
工数を約1/3に縮減
さらに、こうした職員の視覚による点検に替わるドローンカメラのほか、職員が音調棒という道具を使い振動を感知するといった聴覚による点検に替わる振動センサーを組み合わせることで、職員が現地に出向く回数を3分の1程度削減できる効果が予測されているという。
水道局の小林氏はその効果をこう語る。
「従来の職員による点検では職員4人が1チームとなり、浄水場から現地のポンプ場まで出向いて1日がかりで点検します。点検項目が非常に多いのでどうしても時間と手間がかかる。こうしたポンプ場が市内に23か所もあり、往復にかかる移動時間も含めて業務に大きな負担がありました。これが遠隔巡視で可能となれば、わざわざ現地に出向く必要もなく、執務室のある浄水場にいながら設備の状態が確認できるということで、巡視点検業務の著しい効率化が実現するのです」
また、水道事業とは別の部分で成果もあったと松田係長が補足する。「2024年11月19日にメディア向けに公開した実証試験において、15社という多くのメディアに取材に来ていただき、新聞社をはじめとする多くの媒体で記事化していただいたことも1つの成果でした。水道事業でのわれわれの先進的な取り組みが皆さんに発信できたことはとてもよかったと思っています」

神奈川支店 第1グループ 第1チーム主査 新堀雄基
展望
災害の多発化や人口減少など
社会課題を先取りする水道事業へ
ドコモビジネスソリューションズ神奈川支店の新堀雄基は、「日本の水道事業体では初の取り組みとして注目度も高いので、まずは全ポンプ場23か所への導入に向け支援していけたらと考えています。その先は、ドローンで撮影した映像データをクラウド上に集積し、AIで分析して自動で異常検知するようなソリューションもご提案し、より一層の業務効率化に貢献していきたいですね。今後とも並走させていただくことで、一緒に考え、解決し、この横浜発でいろいろな“日本初”を生み出せたらいいなと考えています」と、夢を語る。
羽布津課長は「コロナ禍を振り返ってみても、日常生活や経済の活動が大きく制限されるなど社会全体に不安が膨らむ中でも、水道が当たり前に使えたことが市民の皆さまの大きな安心感につながっていました。この先、人口減少で財政状況も厳しさを増す中で、施設や設備の老朽化による事故を未然に防ぎ、災害時にはライフラインを迅速に復旧させる。そうした社会の要請に先手先手で応えていくことがさらなる信頼につながるので、今後とも失敗を恐れず、DXなど新しい技術の導入にも果敢にチャレンジしていきたいと思います」と展望を述べた。


横浜市水道局
- 組織概要:
- 1884年、英国人技師ヘンリー・スペンサー・パーマー氏を招聘。1885年、相模川の上流に水源を求めて建設に着手。1887年10月17日に日本初の近代水道として給水を開始。その後、関東大震災や第二次世界大戦の大きな被害を乗り越え、ダムなどの水源開発と8回にわたる水道施設の拡張工事を進めてきた。現在、道志川など5つの水源や市内3つの浄水場、約9,300kmに及ぶ水道管を有し、給水人口3,767,595人、年間給水量403,631,300㎥(いずれも2023年度)を誇っている。
- URL
- https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/sumai-kurashi/suido-gesui/suido/