豪雪地帯で大型バスが自律走行する“国内初”の挑戦
「持続可能な公共交通」の答えを最先端通信技術で描く
導入の目的:自動運転バス実装、公共交通の確保、自治体DX
市長の想い
北海道の空の玄関口である本市は、現在、新たな成長のステージを迎えています。半導体メーカーであるラピダス社の進出を契機として関連企業の立地が進み、市街地ではアパートやマンションの建設が増加するなど、まちには新たな活気が生まれています。さらに、新千歳空港の利用者数は令和7年度に過去最高となる2,584万人を記録し、空港で働く方も約9,500人と年々増加しています。市内ではオフィスビルや宿泊施設の整備も進み、ビジネスや観光で訪れる方々の往来も一層活発になっています。こうした状況の一方で、向陽台地区などの一部の地域では高齢化が進んでおり、地域の移動を支える公共交通の役割はこれまで以上に重要となっています。また、美々地区では公立千歳科学技術大学への通学需要や半導体関連企業の進出によるビジネス需要も生まれており、こうした地域において安定的で持続可能な移動手段を確保することが求められています。
公共交通を取り巻く環境は全国的に厳しさを増しています。利用者がコロナ禍前の水準まで回復していないことに加え、2024年問題などの影響により、バス乗務員の不足が深刻化しており、全国各地で減便や路線の廃止が進んでいます。本市においても例外ではなく、市民の皆さまの生活の足をどのように確保していくかが大きな課題となっています。
こうした背景のもと、本市では令和6年度から千歳駅と向陽台地区を結ぶルートで、自動運転バスの実証実験を開始しました。昨年度は、北海道の厳しい積雪や気象条件の中で、安全に運行できる技術の確立を目指し、冬期の走行実証にも取り組みました。その中で、市民の皆さまからは、自動運転バスに対する期待の声が多く寄せられています。
自動運転技術は、将来にわたり地域の交通を支える選択肢の一つであると考えています。実証実験を通じて得られる知見を着実に積み重ね、関係企業や関係機関の皆様と連携しながら、本市における自動運転の社会実装に向けて着実に前進させてまいります。
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NTTドコモビジネスソリューションズ株式会社は全国のお客さまへ営業活動を行うNTTドコモビジネス株式会社のグループ会社です。
※2025年7月、社名変更により、ドコモビジネスソリューションズはNTTドコモビジネスソリューションズに、NTTコミュニケーションズはNTTドコモビジネスになりました。
課題
バス運転士が減少する中、バス需要は増加
豪雪という自動運転の鬼門が立ちはだかる
北海道千歳市は、人口約9万8,000人を擁する道央圏の中核都市だ。「北海道の空の玄関」新千歳空港を有し、コロナ禍以降は国内外の乗降客が急増、令和7年度の空港利用者数は過去最高の2,584万人に達した。さらに近々、半導体製造工場(ラピダス)の本格稼働が見込まれており、美々地区では今後2030年以降に向けて労働人口・居住人口の大幅増加が予測されている。現状でも公立千歳科学技術大学やラピダス関係者など、1日4,000人以上のバス需要がある地域だ。
一方、都市としての発展とは対照的に、公共交通の担い手不足という課題が深刻化している。千歳市の本多孝行氏はこう語る。
「市内で最も高齢化が進む向陽台地区は、路線バス1事業者のみが担っています。その会社の運転士は年齢構成的に今後10年で約60%以上が退職を迎える見込みで、長期的に公共交通への依存度が高いエリアにもかかわらず、担い手が急減するという危機的状況です」
主任 本多孝行氏
需要増と担い手不足が同時進行する状況は、千歳市固有の深刻な課題だ。そこに、もう1つのハードルが重なる。千歳市は豪雪・寒冷地帯であり、降雪・積雪・除排雪によって路面状況が短時間で激変する。このため、除雪後に路肩に生じる雪壁が車道幅を狭め、車載センサーが雪壁を障害物と誤認識して自動運転バスが停止する問題が起きる。
政府が2027年度までに全国100カ所以上でレベル4自動運転サービスの実現を目標とする中、道内では小型低速車両(グリーンスローモビリティ)での実証事例はあるものの、法定速度で走行可能な大型路線バスでの豪雪地帯実証は国内に前例がない。「公共交通の代替手段として役立つ自動運転の実現に向けて、大型バスで通年走行できることを証明する必要がありました」と本多氏は強調する。
対策
路側インフラに「目」を持たせ、雪道を走る自律判断を支える
WiGig×IOWN APNという通信の最適解で費用対効果も実現
課題解決に向けて動き出したのは、NTTドコモビジネスソリューションズ(以下、dBS)北海道支社の伊藤直嗣が千歳市にアプローチしたことがきっかけだ。NTTグループが北海道で進める「北海道IOWNキャンパス」構想の第1号案件として、自動運転×最先端通信の組み合わせを提案した。NTTドコモビジネスを代表機関とするコンソーシアムが組まれ、総務省「地域社会DX推進パッケージ事業(自動運転レベル4検証タイプ)」として採択された。さらに、千歳市と公立千歳科学技術大学は協力機関として参画している。
北海道支社 ソリューション営業部門 第二グループ第三チーム 兼 第四チーム
担当課長 伊藤直嗣
通信システムの設計は、「費用対効果の現実解を探る」というアプローチで進められた。NTTドコモビジネスのPMとして全体調整を担った常田仁は、その経緯を振り返る。
「自動運転システムのネットワークをIOWN APNに統一すると、コスト面で社会実装が遠のきます。そこで幹の部分はIOWN APNで帯域を確保し、枝葉にあたる路側機・車両間の大容量データ伝送には高度WiGigを使う。配られたカードと予算の兼ね合いで、現実的な落としどころを探っていった結果です」
北海道支社 ソリューション営業部門 第三グループ第二チーム
常田仁
高度WiGig(60GHz帯)は無線局免許不要で設置期間を短縮でき、上り大容量通信ではローカル5Gより有利な面もある。一方、IOWN APN(オールフォトニクス・ネットワーク、NTTグループが推進する次世代光通信基盤)は超低遅延・大容量を特長とし、通信システム全体の幹として安定した帯域を確保する役割を担う。そして路側機のカメラ・LiDARが取得する映像データ(約90Mbps)と車両側のセンサーデータ(約400Mbps)をMEC(マルチアクセスエッジコンピューティング)へ高速伝送し、リアルタイムで3Dマップを生成・更新、最適走行ルートを自動運転バスにフィードバックする路車協調システムが構築された。
路側センサーの設置箇所は、千歳市との課題共有から導き出された。「東大通りの市役所前交差点は、常に雪だまりになって路面が変わる。仲の橋通りの交差点も危険なポイント」という現場の知見をもとに、点群データと4Kカメラによる監視を組み込んだ。
「もともと東大通りは1車線の道路を2車線化した経緯があり、路肩の幅が狭く、除雪すると1.5車線のような状態になってしまいます。地元のドライバーは慣れているのですが、自動運転バスは雪を障害物と認識して止まってしまうのです。そこで、路側センサーで事前に情報を取得して車両に送ることで、ルート変更に対応できる仕組みの提案が我々の課題とぴったりマッチしました」(本多氏)
冬の本番実証に先立ち、2024年12月には芦別市の北日本自動車大学校テストコースで約10日間のトレーニング合宿を実施。千歳より豪雪の厳しい環境で降雪・圧雪・凍結条件での制御を徹底的に検証した後、2025年1月14日から24日まで「千歳駅〜千歳市役所〜新千歳空港〜美々地区」の片道約12.5km(往復25km)のルートで本番実証が行われた。
効果
雪道自動運転率90%超、遠隔監視もほぼリアルタイムで成立
「居眠りする乗客」が証明した、普通のバスとしての乗り心地
2025年1月の実証期間は、雪が例年より少なく条件に恵まれた面もあった。それでも、初の冬の本格実証として結果は目標を大きく超えた。雪道での自動運転率は90%超を達成(目標80%以上)。圧雪路面・凍結路面での時速40〜50km区間の連続自動走行が確認できたのは、本多氏も「正直1年目は課題だけ出てくればいいと思っていた」と振り返るほど大きな成果だった。
遠隔監視拠点を置いた札幌のNTTドコモ北海道ビルでは、LiDARの点群データと4K映像をクラウドで処理した映像を1画面でリアルタイムに確認。カタログ値ではミリ秒単位の遅延があるものの、実際の映像ではほぼリアルタイムでの遠隔監視が成立した。
関係者・周辺自治体職員など延べ約300名(社外235名、社内65名)が試乗し、乗り心地については「普通のバスと一緒」という評価が相次いだ。「私自身、想像していたよりずっと人の運転に近い乗り心地でした。試乗された乗客の中には、快適でつい居眠りしてしまう方もいらっしゃったほどです」(本多氏)
試乗者アンケートの「あなたの街で自動運転バスが走ってほしいですか」という質問に85%が肯定的に回答。周辺自治体の交通政策担当者からの関心も高く、千歳市の実証が道内の自動運転普及の起爆剤になりつつあることを示している。令和6年度から今年度にかけての市民アンケートでも「運転士不足解消への期待」は約70%から90%超へと大幅に上昇した。
一方で課題も記録された。往路はほぼ100%自動走行できた区間で、復路(左折経路)は雪壁が手前にかかりセンサーの視界を遮ることで自動運転率が低下した。ドライバーによって手動介入の回数に差があることも判明した。芦別合宿に帯同した運転士は慣れから手介入が少なく、未帯同の運転士は不安から手動に切り替えるケースが多かった。「経験の差が数字に出た」(本多氏)という学びは、次年度以降のオペレーション設計につながる。
展望
除雪データへの転用が描く、コスト分散と社会実装加速の道筋
節目の年に千歳市が北海道自動運転のトップランナーへ
令和7年度の冬季実証で得られた知見をもとに、今後は雪道でのレベル4(特定条件下における完全自動運転)を目ざし、走行安定性と運行支援の高度化を段階的に進めていく。通信システムによる情報共有でリアルタイムに変化する路面状況に応じた柔軟なルート設定を可能にし、不要な減速・停止・迂回を抑えることで、通年で安定した移動サービスの実現を目指す。
ルートの拡張も計画されている。ラピダスの本格稼働に向けた通勤需要の増加を見越した美々地区への新規ルート、さらには北海道エアポートと連携した空港内での自動走行検証も計画している。技術面では5Gネットワークスライシングの活用も視野に入れ、自動運転専用の安定した通信帯域の確保を目指す。中でも注目すべきは、路車協調システムで得たデータの二次利用という発想だ。
「自動運転のために収集した点群データや4Kカメラの映像データを除雪業務に転用することで、除雪事業の費用や稼働低減が期待できます。除雪に関わる市内の行政業務や事業者で有効性が確認できれば、社会実装がぐっと早まるでしょう」(伊藤)
コストを複数の用途で分散させ、社会実装のハードルを下げる。この発想は千歳市が掲げる将来ビジョンとも重なる。「市が定めた将来ビジョンの中に、IoTでいろいろなものをインターネット同士でつないでいく構想があります。自動運転がその最初のパーツをつくっていると考えています。これを皮切りにいろいろな領域でデータ連携を進めていくチャレンジを続けていきます」(本多氏)
dBSとしては今回の千歳市の事例を道内外への水平展開の起点と位置づけている。「同じような課題を抱える自治体は非常に多い。千歳市の取り組みが、いま一歩踏み出せない自治体の背中を押す先行事例になってくれればと思っています」(伊藤)
すでに道内外の自治体への水平展開も始まっている。試乗した交通政策担当者たちは「自分の街でも」という手応えを持って帰り、具体的な導入検討を始めた自治体も出てきた。千歳市の飯田光氏は、市民からの期待を実感したという。
「老若男女を問わず、幅広い世代の市民の方から『いつ自動運転のバスに乗れますか?』という期待する声をいただいています。少しずつでも実装が進んで市民に浸透していくこと、交通空白地域にも自動運転バスの展開ができること、それがいちばんのミッションだと考えています」
係長 飯田光氏
千歳市空港開港100年という節目の年に、市長が掲げた「動き、展開し、そして飛躍する一年」という言葉は、自動運転の文脈でも重なって聞こえる。担い手不足に悩む全国の地方都市が「持続可能な交通をどう守るか」という問いに向き合うとき、豪雪の千歳で大型バスが雪道を自律走行した事実が、その答えへの力強い道標となるのではないだろうか。
北海道千歳市
- 自治体概要:
- 面積約595平方km(東京23区とほぼ同規模)、人口約9万8,000人を擁する道央圏の中核都市。「北海道の空の玄関」新千歳空港を有し、国立公園支笏湖など雄大な自然に囲まれていて、四季を感じられる住環境と、交通アクセスや生活利便性に優れた都市環境が調和する。
- URL
- https://www.city.chitose.lg.jp/
- 取材日:2026年3月11日